蒼夏の螺旋 花寒むの夕べ
 


東京の桜はそろそろ葉桜になって来ていて、
次は東北の方が見ごろなんだろねなんてのが話題に上る頃合い。
こちらはツツジの蕾が膨らみ始めてるよと
塩釜のくいな姉ちゃんへメールを打ったら、

 「塩釜神社の枝垂れ桜がそろそろ満開なんだってvv」

そんなお返事が返って来たと、
小さな奥方がはしゃいで出迎えて下さった、
ここは東京郊外のとあるマンションの一室。
一見すると、高校生かな?もしかして中学生かも?というほどに、
大きな瞳や表情豊かな口許がいかにも印象的な、
小柄で細っこくて童顔な男の子。
ルフィといって、これでもしっかり成人年齢であるのだが、
ちょいとした事情から体のお年は一時停まってた時期があり、
顔写真つきのパスポートか運転免許証を常に携帯してないと、
ちょっとそこのボク、平日の昼間っから何してるかなと、
少年課の刑事さんからお声を掛けられやすい身でもあったりし。

 「失礼しちゃうよな。」

でもま、○○署のお姉さんたちはもう覚えたらしいけど…なんて、
今じゃあアイドルみたいなもんだしと微笑って見せて、
そんなオチを用意しててどうするかと、ご亭主を苦笑させてもいる陽気なお人。
そういった特別な事情がなくたって、
あんまり見た目は変わらなかったかもというくらい、
素地自体がかあいらしいし、人懐っこくて愛嬌もあって。

  ―― しかもしかも

実年齢に見合った気の回しようも実は秘かに心得ておいで。
少年課に補導されかかったなんてお話は、
もしかしてゾロには気になる話題かも知れない。
こちらさんはこちらさんで、
いかにも体育会系のがっつりした体躯に見合った、
それは雄々しい人性をしておいで。
豪快…というのとは微妙に違うけど、それでもあのね?
剣道一筋の十代を送りました、あんまり気が利きませんということへの自覚が、
ルフィに関しては特に強いめに出るものか。

  内緒の、それも悲しい事情が由縁してることを
  頑張って、誤魔化さなきゃならないなんて。

彼のせいではないことだのに、つらかったろう過去のお話。
誤魔化すたびに思い出してるルフィなんじゃなかろうか、
そんな目に遭ってちゃあ傷つきゃしないかと。
独りで居る時の話だからこそ、
ああ自分が一緒にいりゃあ何も問題なんてなかったろうにと、
そんな格好で…ゾロの側こそが意外に気に病んでたりするからね。

  ―― 今じゃあ笑っちゃうくらいに何でもないことだよ? ね?

そんな風に笑い飛ばして差し上げて、
自分は平気だと示すのを忘れない。

 “だってゾロが一番好きなのは、笑ってる俺だしね♪”

鏡だってこうは行かないってほど、ルフィが笑えばゾロも笑う。
元気がないとゾロまで何だかそわそわ落ち着かなくなるし、
む〜ん?と眉を寄せて勘ぐれば、下手な演技で素知らぬお顔をするもんだから、
あ・隠し事してるなってすぐにバレちゃうのが可愛いゾロ。
だから。
大したことじゃあないなら尚更、適度におどけて見せてあげないとvv
へーきへーき大丈夫って、
大きく胸を張って余裕あるとこ見せないと、
こんな大きな図体してて、なのに俺んだけは繊細なゾロvv

 “でもあのね?
  そゆトコもだ〜いすきなんだな、これが。/////////

こんなカッコいいゾロを独占出来てて、
しかもしかも、自分へだけという
ちょっぴり意外な…特別なお顔も知ってるんだぞって。
そんな優越感がまた堪らないvv

 「ルフィ?」

寝室で普段着に着替えて来たご亭主から、
どした?とお声を掛けられて、何でもないないとキッチンへ。
今夜は、牛カルビとシシトウをちょっと辛いめのタレでつけ焼いたのと、
油揚げに玉子を落とし入れて甘辛に煮た あげたま煮と。
春雨やモヤシや青菜に千切りニンジンなどなどを炒めて、
オニオンドレッシングでさっと和えた冷製チャプチェ。
ワカメとタケノコのすまし汁…は、ご飯と一緒がいいのかな?
ちょっぴり腕を上げた手料理の数々を
温かいまま“どーだvv”とご披露するべく、
たかたかとキッチンへ向かったのでありました。





  ◇  ◇  ◇



  ……………で。


何の話からこうなったものか。
美味しい夕食を食べてのそれから、
そうそう、今は丁度番組改編の終盤で、
新しく始まるドラマとか、
初回スペシャルとか言って2時間とかの枠越え放送されてるもんだから。
ニュースが終わってさあとチャンネル替えたところが、
7時から始まってましたという番組のほとんどが、
そのまま9時までやってますのオンパレードだったりし。
ドラマは途中から観たってワケ判らんし、そもそもあんまりドラマは観ない。
スポーツ中継は平日だと野球が中心なので、ちょっと馴染みがないかなとパス。
バラエティものは…今夜のラインナップには今一つ好みなのがなく、
映画や情報番組は9時かららしいとあって、
ぽっかりと時間が空いてしまったお二人さん。

 『…えっと。』

いや別に、
今日一日それぞれが見聞きしたこととかお喋りしたって良いんだけれど。
今宵はちょこっと話の流れが別な方向へと逸れたその末、

  か・こーんっと

湯桶やイスをガタゴト置く物音が、微妙にエコーをまとって響く空間に、
ご夫婦でそろって居たりして。

 「ん〜〜〜っ、いいお湯だ。」
 「そだな〜♪」

本当に時々のことだけれども、一緒にお風呂に入ることがあるお二人。
と言っても、そんなに広々した風呂場じゃないし、
それでなくたって体格のいいご亭主なので、
ゾロ一人が浸かるのでいっぱいいっぱいな浴槽だってのに、

 『たまには背中流してほしいな』

時たま“カラスの行水”な旦那様なので、
今日はしっかり洗って来いなどとお母さんみたいに上から言えば、
それへのお返事がいつもこれ。
体が堅くて背中の真ん中までは手が届かねぇんだよななどと、
何とも白々しい嘘をつき、
な?な?と手際良くも引き寄せの、懐ろの中へと掻い込んでしまう。
後片付けがあんのにとか何とか、むむうとたじろぐ奥方を、
真ん丸なおでこへ ちうなど贈って、
髪を撫で撫で、おねだりを続けておれば。

  ―― まま、強く断る理由もないかと

ぱふり、お顔を埋めた格好の、旦那様からの匂いに幻惑されちゃうものか、
一緒でいいぞvvとお許しが出て。
流してほしいってのが口実だったのが丸判り、
まずはと腕まくりした奥方が、
ひょいと抱えられての…頭から背中から問答無用できっちり洗われ、

 『こら、誰を先に洗ってんだ。やめ…ぞろ〜〜〜。』
 『あんまり騒ぐと近所迷惑になんぞ〜。』

昨夜はにぎやかでしたこと、なんて言われても良いのかな?
奥様がたは品のいい人ばっかだけれど、子供は遠慮がないからな。
ルフィせんせー、何してたの?なんて訊かれても、昼間は俺 居ないし。

 『うう〜。/////////

そんなこんなと体よくあやされているうち、
大きな手でごしごしと洗ってもらうのが気持ち良くなっちゃって、

 『〜〜〜♪ /////////

まいにゃ口答えも出て来なくなるくらい。
ほややんと陶然となったところを湯船へつけられ、
あっと気がつきゃ、
自分は適当に洗って、窮屈なところへ続いて入って来たご亭主で、
「ちょぉっとすまねぇ。」
「〜〜〜。/////////
背中からの抱っこが一番収まりは良いのだけれど、
それだと…ルフィからはお顔が見えなくて落ち着けないからということで。
お湯の中で再び抱えられ、
少しほど立てる格好になる腿を背もたれに、
お膝抱っこをされての向かい合う。
これには あのその、

 “もうちょっと小さい子供ならともかくさぁ…。/////////

いくら何でも、こういう態勢で無邪気に振る舞えるほどまで、
あのその、すっかりと“ガキ”じゃあないのにね。
それが判ってないゾロじゃあないはずで、
ベッドに上がりゃあ、あのその…なんだ。/////////
ちゃんと大人同士の扱いをするくせしてサ。

 “む〜〜〜。/////////

ほのかに香るは、セッケンの匂いとシャンプーのシトラスミント。
入浴剤は入れてなく、湯の中もきれいに覗ける間合い。
間近になった分厚い胸板には、
ずんと古いそれだろう、小さい傷が結構ちらほら。
防具をつけて、師範がいる道場でしか、
竹刀は振るわないのが基本だったので。
剣道関わりのはさすがにないかと思ったが、
よっぽど強い奴とやった跡だろう、鎖骨の辺りや肩の丸みに目立つのがあるし、
不本意ながらの喧嘩で負ったものとかが、
よくよく灼いた肌の上、二の腕や胸元にも…。

 “………と。”

いやこれは…もう何年前になるんだか、
サンジと本気の喧嘩をしたときのだと気がついて。
どうしてだろうね、頬がかぁって熱くなる。
半端じゃない痛さでの殴り合い、
あの頃のサンジは不死身の身体だったから、
痛くはあってもすぐに回復出来たけど、
ゾロの方はそうはいかない身だったのにね。
身内でもないし、何よりも…ゾロには自分の正体黙ってたルフィだったのに。
そんな子のためになんで、痛い想いをわざわざしてるのかなって。
それがとっても不思議だったっけね。
それから…ホントにルフィか?って何度も何度も訊いたゾロだったから、
お胸がきゅうぅんって痛くなってサ。

 「う〜〜〜。/////////
 「どした?」

のぼせたか?って訊かれたんで、ぶんぶんってかぶりを振る。
そいからそいから、落ち着こうって思って、
胸元の傷痕から眸を逸らせば。

 “あ…。”

そこよかもっと下の方、これは最近出来た傷。
年末の慌ただしい頃にいきなり、出張先で入院しちゃってサ。
“腹斬りするんだ”なんて、物騒なことを電話で言って来たときのだ。
盲腸なら盲腸って言やいいのにさ。
もんの凄っごく心配して、何かに憑かれてたみたいになって駆けつけて、
だってのにケロッとしてんだもんな、この野郎。
ムキになったの半分、名物だっていうカニ料理とか弁当とか買いあさって、
まだお粥しか食べられないゾロの前で“食べまくるぞ”って腕まくりしていたら、
担当の看護師さんから笑われたっけ。

『ボクの方までお腹を壊さないようにね?』
『え?』
『…ああ、カニが悪いって言うのじゃなくて。』

心配で心配で、胃や腸がきゅうって締めつけられてた、
もしかしてロクにご飯が喉とおらないまま駆けつけたのじゃあない?
今日逢ったばっかなルフィのことをずばり言い当てた婦長さんは、

『だって、お兄さんが買い物の山を見ても全然びっくりしてないって事は、
 普段はそれだけ食べても普通なんでしょう?』

でもね、いくら普段と一緒でも、
緊張しきってたところへそうまで大量なご飯が飛び込んで来ちゃあ、
胃も腸もびっくりする。
少しずつゆっくりお食べなさいね?
そんな風にご忠告下さり、
緊張してたという下りへ、ゾロがいたく感じ入ってくれたので、
ルフィの側も意地悪はやめにして。
そんでも…3分の2ほどの“5人前”は平らげたのだけれど。(苦笑)

 “………。”

手術と運んだそのせいで、
部長さんから“年末年始はゆっくり休め”と
ありがたくもいたわられたのは良かったが。
年が明けてからは、それを埋めるかのごとくばたばた忙しかった企画部のホープ様。
まま、それは本人も納得してのことだったようだし、
いろんな偉い人や凄い人から“君にしか出来ぬ”と頼られてるゾロだって事実は、
ルフィとしては何だか自分ごとみたいでほわほわと嬉しいし。
そんな忙しい身だってのに、
ルフィのことを…忘れるどころか、下手すりゃ仕事より優先しかねぬ時があるのを、
どうやって諭したらいいんだろかと困ることもたまにあるのが、

 “…それで差し引きゼロってことなんかなぁ?”

全てが一等、パーフェクトなんて人は居やしない。
居たとしたって自分は願い下げ、
どこか抜けてるゾロだから、ますます好きだと思う今日このごろの奥方が、

 「???」

ぼんやりとしているのをどう解釈したものか。
何を見てぼうと呆けているのかなと、その視線を追ってから、
おやおやと苦笑をしちゃった旦那様。

 「…案外とすけべえだな、お前。」
 「え?」

いきなり何の話?とキョトンとし、
相手が下げて見せた視線を自分でも追ってみたらば、

 「何 言って、………ばかっ!/////////

そんなもん毎晩見慣れてるやいとでも言いたかったか、
(おいおい)
お湯の表を叩いたそのままの勢いで、
ばっしゃんと顔へお湯をかけられてしまい。
水も滴る男っぷりに磨きがかかったご亭主の、
一体どこへ見とれていたんだ…と誤解されちゃった奥方だったやら。/////////
花冷えの頃合いは案外と、じわじわ夜寒が忍んでも来ます。
湯冷めをしないよう、暖まったそのままで今宵はお休みなさいませね?





  〜どさくさ・どっとはらい〜 08.4.17.


  *一体 何を書いてんだか、ですなvv
   久々にラブラブな人たちをお浚いがてらに書いてみました。
   ルフィさんは相変わらず、
   なかなかいい奥さんぶりを発揮しとられますが。
   ゾロからすれば、
   構いたくってしようがない可愛い従兄弟ってのが先に来ますもんで。
   ついつい子供相手みたいな構いつけもしております。
   ところが奥方にしてみりゃあ、そんなする割にベッドじゃあどうだよとか、
   自分も真っ赤になることを引き合いにと思い出してみたりして。
   ………やってろ、ですね、まったくもうっvv

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